ふるさとのふとぅわ(言葉)

 9月18日しまくとぅばの日関連で、琉球新報オピニオン欄ティータイムに投稿しました。9月22日に掲載。下記の文章は原稿。
しまくとぅばの日を前に我がふるさと伊是名の多様な言葉について思いを馳せてみた。伊是名では言葉のことを「くとぅば」「ふとぅば」「ふとぅわ」と三通りの言い方がある。伊平屋(いひや)ぬ松金(まちがに)こと尚円王の生誕地である私が生まれた諸見区は「ふとぅば」という。人口わずか2000人足らずの小さな島でなぜ三通りの言い方があるか不思議だ。その昔、他島から移住した人がいたということか。尚円王の叔父の墓、伊是名玉御殿の祭祀も首里と同じように行われるので首里言葉も伝わっている。ちなみに「ふとぅば」という言い方は国頭語の大宜見村や王朝時代琉球の版図だった奄美語の与論島がある。
ひとつの単語に対する多様な表現は二人称についてはもっと面白い。日本語の「あなた」を伊是名では「っいやー」、「うら」、「うが」、「うんじゅ」と四つの言い方がある。「っいやー」は同輩か目下に、「うら」は目上、同輩、目下に対する敬語、「うが」は目上に対する敬語、そして「うんじゅ」は目上に対する敬語である。「うが」は組踊二童敵討で勝連城に於ける月見の宴のシーンで、下臣に酒を勧める阿麻和利のセリフに「うがたちん 飲みゅ」と出てくる。この場合は「お前たち」の意味で敬語ではない。
更に伊是名の言葉が面白いのはドイツ語や英語の影響ではないかと思われる単語があることだ。疑問形で「どこに行くの?」を「ダンケ んじゅろ?」と言う。ダンケはドイツ語の「ありがとう」の意味だが、伊是名のダンケは感謝の意味ではないが発音が似ている。また伊是名人(んじなんちゆ)の会話を聞いていると「ッウワイ ウワイ」と騒々しい、と思った人もいるに違いない。「ウワイ」を語頭を上げて発音すると英語の「whay?」になり、語尾を下げて発音すると「yes」肯定の意味になる。何とも不思議な伊是名のしまくとぅばで、それだけ伊是名人は表現力が豊かなのかと「ふるさと自慢」をしているこの頃である。
しかし琉球諸語・沖縄語が消滅の危機にある今、伊是名も普及継承の取り組みがなく心もとない。平成16年に伊是名方言辞典も発刊しているのに宝の持ち腐れになっている。今のままだとそう遠くない将来、伊是名の「しまふとぅわ」、私の母語は消滅してしまうだろう。

しまくとぅば連絡協議会 副会長 覇市文化協会うちなーぐち部会 事務局長     名嘉山秀信(71)